健忘

『最近頭が悪くなった気がする……』うつで起こる『健忘』って?

うつ病になってから頭が回らない、物覚えがひどく悪くなった気がする、最近のことなのに思い出せない……そんなことを感じる方、それは気のせいではないかもしれませんよ?
実際にうつの症状のひとつとして、『健忘』と呼ばれる記憶障害を経験する患者は決して少なくありません。
それは年齢に関係なく、うつ病の患者誰にでも起こりうることです。
だからこそ、健忘とはどんなものか、是非知っておきましょう。

(ただの物忘れじゃない、健忘とは)
健忘とは簡単に言えば『病的な物忘れ』のことです。
一般的な物忘れでは、後で不意に思い出したりよくよく考えた末に思い出すこともありますが、健忘の場合、記憶が抜け落ちるように忘れてしまうため、なかなか思い出すことができなかったり、そもそも全く記憶になかったりします。
忘れてしまう事柄は、『昨日食べたもの』『職場の出来事』『読んだ本の内容』といった、経験や場所に基づくものや知識など、いわゆる『頭で覚える』と言われる記憶で、心理学などでは『宣言的記憶』と呼ばれるものです。
対照的に箸の使い方や自転車の乗り方など、体で覚える技術的な記憶に関して忘れることはほとんどありません。
頭で覚える記憶と体で覚える記憶は、それぞれ脳の別々の場所で管理されていると言われており、同じ『記憶』でも覚えに差が出るのはこのためだと思われます。
健忘とは一般的に、頭で覚える『宣言的記憶』を病的に忘れてしまう症状のことを指します。

(日常生活が不便になる健忘の症状)
では、具体的に『健忘』が起こるとどうなってしまうのでしょうか。
健忘の症状は古い記憶ほど忘れるような『記憶の風化』ではないため、ほんのついさっきの出来事すら忘れてしまうことがあります。
『○○をやっといて』と言われて了承しても、その数分後には頭の中から完全に飛んでしまうなんてことも。
それが積み重なると、健常な人から『この人に言っても返事だけしてやってくれない、信用ならない』などと評価されてしまい、特に仕事などに大きな支障を来たすことになります。
また、過去の一部分の記憶が抜け落ちたように思い出せないこともあるため、例えば面接などで前の職場や学校でのことを聞かれてもぱっと回答できなかったり、薬を飲んだかどうか思い出せなくて二重に服用してしまったり……。
記憶障害は日常生活のあらゆる面であなたに不利に働き、また思い出せないことによるイライラやストレスでうつ状態がより悪化してしまうこともゼロではありません。
健忘とは非常にやっかいで、困った症状なのです。

(どうして起こるの、どうすれば治るの?)
健忘そのもは、外科的な理由でも起こりえますが、強いストレスやうつ病によって引き起こされることもあり、理由は様々です。
うつ病が原因で起こる場合、ストレスが脳の機能を低下させる、脳への刺激が少なくなり脳内で使わない部位が増えてしまうからなど、様々な説もあります。
また一部の睡眠薬は、服用してから寝付くまでの間、もしくは途中で目覚めた時に起こした行動の記憶が飛んでしまう形で、健忘を引き起こすことがあります。
どうすれば治るのかと言われれば、うつ病が原因である場合にはうつ病そのものを治すしかありません。
睡眠薬が原因の場合は、薬を飲んだらすぐに布団に入ったり、他の薬に変更して様子を見ることが必要になってくるでしょう。
ただし、睡眠薬は通院初期から処方されることが多いため、うつ病が原因なのか特定の睡眠薬が原因なのかは、なかなかわかりづらいもの。
医師と相談しながら少しずつ治療する中で、徐々に改善されていくのを待つことになるやもしれません。

(忘れる前に記録しよう)
では『健忘』と上手に付き合っていくにはどうしたら良いのでしょう。答えはずばり『メモ魔』になること。
目立つ場所や手元に手帳を用意し、些細なことでも人からの頼まれごとや今後の予定など、大切な事柄は詳細をメモに残しておくと、いざ忘れてしまってもそれを見返せば済む話です。
また、今日やることや直近の約束事は、自分が毎日必ず見る場所にメモを貼り付けておくと、そこに目線をやるたびに意識することができます。
せっかくメモを残した手帳や紙を行方不明にしてしまっては意味がないので、手帳を置く場所やメモをはる場所は必ず一定の場所に決めておくことも大切です。

(脳に適度な刺激を与えよう)
毎日をぼんやり過ごしていると、健常な人でも曜日の感覚がなくなってくるなどすることがあります。
うつ病で脳の機能が落ちている時は、ただでさえ活発に動くことができず、そうした傾向が顕著に現れてくるもの。
そこで、うつだからといってやる気の起きないままに布団に閉じこもるだけではなく、調子のいい時にはできるだけ布団から出て、脳に適度な刺激を与えましょう。
窓の外の景色を見たり、外出できそうなら近所を散歩してみるのもいいですね。
体や手先を動かすことはよい刺激になるので、できるだけ動かすようにしてみてください。
ただし、自分の体調と相談しながらやりましょう。無理は禁物です。

非常にやっかいな症状、『健忘』。
忘れてしまう自分をあまり悲観せず、これも病気の一部であると心に決めて、上手にやり過ごしていくことが大切です。